ファッションのネットショッピングは大戦争時代を迎えつつある。円高の追い風に乗る個人バイヤー型サイトの好況が続く一方、「楽天市場」や「Amazon.co.jp(アマゾン)」のようなメガ通販もファッションに本腰を入れ始めた。SNSやAR(拡張現実)を活用したソーシャルショッピングも活気づいている。(文:ファッションジャーナリスト 宮田理江)
円高が続く中、為替メリットを感じやすいバイヤー型海外通販サイトは人気が続く。現地在住のバイヤーが買い付けてくれるから、新作がすぐに手に入るし、セレクトの幅も広い。既に現地の店頭に並んでいる品が大半だから、品切れや入荷待ちの心配もない。世界70カ国・地域のバイヤー3万人と契約している「BUYMA(バイマ)」は品ぞろえの厚みが際立つ。運営会社のエニグモは2012年7月、東証マザーズに上場して信用力を高めた。

海外のバイヤーの買い付け商品「バイヤーセレクト」と、ファッションブランドが公式に出品するアウトレット「ブランド公式アウトレット」で構成されているサイトが「waja(ワジャ)」。リーズナブルプライスの商品が多い上、プチプラ特集やテーマ企画などがいつも展開されているので、ついつい長居してしまう。バイヤーからの直送ではなく、wajaがいったん商品を国内で検品して中継ぎしてくれる点も心強い。

日本では入手が難しいブランドやアイテムに強いのが「LASO(ラソ)」。割とレアなセレクトが冴える。「ヴィンテージCHANEL」といった玄人好みのテーマも立てて、おしゃれマインドを刺激する。バイヤー型サイトはそれぞれに持ち味が異なる上、バイヤーそれぞれにも好みや傾向がある。自分の趣味に近いバイヤーを見付ければ、狙い通りの買い物が頼みやすくなる。

米国ハワイ州にショップを構える「ALOHA RAG(アロハラグ)」の通販サイトでは、米ドルの正規価格と値引き後価格の両方が公開されているので、割引率を数字でつかめる。円高メリットを実感しやすい点もうれしい。サイト上のアイテム画像をマウスオーバーすると、着用モデルの画像が表示されるのは、実際の着こなしをイメージする上で助けになる。

メガ通販勢もファッション販売の強化を急ぐ。ファッション通販を強化する動きを加速している楽天は、米国からの個人輸入サービス「アメリカ・ダイレクト」を始めた。楽天グループの子会社「Buy.com」の商品を日本から購入できる。楽天はファッションネット通販サイト「Stylife(スタイライフ)」を運営するスタイライフと資本・業務提携し、ファッションネット通販部門を強化している。

アマゾン・ドット・コムは「フラッシュセール」と呼ばれる、時間限定の割引販売サービスを米国で始めた。「MYHABIT(マイハビット)」を立ち上げ、最大60%の割引セールを提供している。

一方、欧米の有力ファッション通販サイトはブランドグループ企業との連携を深め始めた。イタリアの通販サイト「yoox.com(ユークス・ドットコム)」の運営会社はラグジュアリーブランド企業グループのPPR(ピノー・プランタン)とパートナーシップを結んだ。PPRは「GUCCI(グッチ)」「Yves Saint Laurent(イヴ サンローラン)」「Alexander McQueen(アレキサンダー マックイーン)」「Bottega Veneta(ボッテガ ヴェネタ)」「Balenciaga(バレンシアガ)」などのブランドを傘下に持つ。「yoox.com」は8月のリニューアルを予告済みだ。プレビューサイトを見ると、特集やテーマがさらにエッジィになっていて、ショッピング意欲をそそる演出が施されている。

ハイエンドな品ぞろえが強みの英国発のサイト「NET-A-PORTER(ネッタポルテ)」は、Richemont(リシュモン)グループの傘下に入った。「Cartier(カルティエ)」や「Van Cleef&Arpels(ヴァン クリーフ&アーペル)」などのブランドを所有する。「NET-A-PORTER」は2000年に創業した、この分野の老舗的存在だ。

ARをはじめとする、新しいネット技術がネット通販の「かたち」を書き換えつつある。アイウエア専門店「JINS(ジンズ)」を展開するジェイアイエヌでは、着用状態の自分の姿を確認できるウェブサービス「Salon de MEGANE!」を始めた。自分の顔写真を使って、バーチャルフィッティングを体験できる。わざわざショップに足を運ばなくても、次々と試着できる。

スマートフォン向けの着せ替えアプリを使って、仮想着用写真をSNS上に投稿して仲間からコメントをもらえるサービスも増えてきた。買う前に評判を確認できる点は「買って失敗したくない」という今の消費者の気分になじむ。着こなし画像を投稿できるSNS連動型サイト「UNIQLOOKS(ユニクルックス)」には、投稿画像が増え続けている。

UNIQLOOKS
ファッションコーディネートサイト「iQON(アイコン)」で、「ZOZOTOWN」の商品を使ったコーディネートの作成ができるサービスが始まった。ZOZOTOWNで販売されている商品画像をiQON内で自由に組み合わせてコーディネートを作成することができる。

ネット通販の常識は日々書き換えられつつある。投稿コーデを眺めているうちに通販ページに誘い込まれるような仕掛けや、ゲーム性を帯びた「ゲーミフィケーション」の味付けも今後は広がっていきそうだ。
(文:ファッションジャーナリスト 宮田理江)
■宮田理江 - ファッションジャーナリスト -

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビなど数々のメディアでコレクションのリポート、トレンドの解説などを手掛ける。コメント提供や記事執筆のほかに、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南書『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』がある(共に学研)。 http://fashionbible.cocolog-nifty.com/blog/