2016-17年秋冬ニューヨークコレクションでは、ショーそのものの見直しが大きな話題となった。今のシーズンに着られる商品をショーで発表する「see now buy now」の動きが加速した。6カ月ものタイムラグを嫌う意識が背景にあるが、ランウェイショーの欠点にもあらためて目が向けられ、プレゼンテーション(展示会)形式のショーが増えている。モデルが一瞬で通り過ぎるランウェイ形式ではないプレゼンテーションはもともとNYブランドが好んで用いてきた。今回は、NYモードを代表する大御所ブランドもプレゼンテーションに切り替える中、それぞれに趣向を凝らした演出が試されていた。多様性を示す、独創的で踏み込んだ見せ方は、ランウエイを上回る説得力を持ち始めたようだ。(文・写真:ファッションジャーナリスト 宮田理江)
■MONCLER GRENOBLE(モンクレール グルノーブル)
スペクタクルな大規模ショーを毎回、披露してくれる「MONCLER GRENOBLE(モンクレール グルノーブル)」。今回は久々に極寒の屋外でショーを敢行。NYのショーではそれぞれの世界観を示しやすい場所を選ぶクリエイターが多いが、零下2けたの超低温とあって、戸外を選ぶのは極めてまれ。だが、ウインタースポーツや雪山レジャーを意識したブランドだけに、やはりMoncler Grenobleはアウトドアがお似合いだ。今回はかつてのNYコレクション主会場だった総合文化施設「リンカーンセンター」中央の広場全体を使った。広い会場を囲んだ来場者は寒さに震えつつ、ふるまわれたホットチョコレートを頼りにスタートを待つ。

レスキュー隊のようなブルーのウエアとヘルメット、ゴーグルを着用した男女約80人が登場し、リズムに合わせて迫力のダンスが始まった。アメリカの大学でスポーツイベント時のオープニングとして行われる団体パフォーマンスがベースになったようだ。その後に、「モンクレール グルノーブル」の新作を着用したモデル達が登場。目を惹いたのはハウンドトゥース(千鳥格子)をはじめとするチェック柄の多用。シルエットもスリムでスタイリッシュだ。ラグジュアリーなキャンプの「グランピング」に誘うようなスポーティーシックの雪山ルックを提案した。イエローやオレンジといった強め色を使った、インパクトのあるカラーリングもチアフルでハイテックなスノールックに見せていた。

■DIANE von FURSTENBERG (ダイアン フォン ファステンバーグ)
米国のモード界を統括する組織「CFDA(全米ファッションデザイナー協議会)」の会長を務めるダイアン・フォン・ファステンバーグ氏の動向はNYファッション界を象徴すると言える。そのダイアンが今回、プレゼンテーション形式を選んだということは、ファッションショーという「文化」に大きな転換点が訪れたことを物語る。ショーの後にすぐに買える「BUY NOW」を取り入れた点でもダイアンの取り組みには今回のNYコレの様変わりが凝縮されていた。

ミートパッキング地区にある本店・本社を舞台に催したのは、NYらしいリアル感を印象づけるショー。オンとオフの様々なシーンを連想させるシチュエーションの中でモデル達が実際に暮らすかのように演じる。ジジ・ハディド、カーリー・クロス、ケンダル・ジェンナーといったトップモデルが時にセルフィーを撮り、おしゃべりを楽しみ、さらに音楽に合わせて踊り、来場者の至近距離でくつろいだ表情を見せる。ドレッサーでメークをする場面では、ダイアン本人も仲間入り。これまではランウェイを早足で通り過ぎるだけの遠い存在に思えたモデルと作品の距離感が一気に縮まった。その演出には消費者との温度差を減らそうとする意識が読み取れる。バレンタインデーにふさわしいディスコパーティー風の仕掛けは70年代風の華やいだ装いとも自然に融け合って見えた。

■THOM BROWNE. NEW YORK(トム ブラウン ニューヨーク)
実験的なショーを企てる点では「THOM BROWNE. NEW YORK(トム ブラウン ニューヨーク)」も定評がある。今回はメランコリックな公園風のシチュエーションを舞台に、ゴシックファンタジーを帯びたコレクションを披露した。モデルは公園内の歩道を実にゆっくり歩く。一般的なランウェイの慌ただしさはなく、立ち止まっての「決め」ポーズも取らない。その意味ではプレゼンテーションとランウェイのいいとこ取りミックスのようだった。ショーの最後にモデルが勢ぞろいしてフィナーレを飾る場面もない。ミステリアスなショートフィルムを思わせる構成だ。

キーアイテムになっていたのは、極端に変形を加えられたネクタイ。オブジェのように顔に巻き付いたり、ヘッドアクセサリーと一体化したりと、マニッシュなテイラーリングのジャケットルックにいたずらっぽいノイズをまぎれこませている。左右で見栄えの異なるアウターや、過剰な量感、独特なプリーツ使い、カフスの誇張などもアンバランスの美学をささやいていた。

■alice + olivia(アリス アンド オリビア)
「alice + olivia(アリス アンド オリビア)」は70年代後半の荒れていたNYのダウンタウンに着想を得て、ロックテイストの濃いコレクションを打ち出した。このような方向感のはっきりした作品群を印象的に表現するうえでもプレゼンテーション形式は来場者に明確なイメージを与えやすい。

会場の随所に音楽やアートを感じさせるインスタレーションを用意して、クラブやスタジオ、地下鉄駅などの雰囲気を立ちこめさせた。ほとんど裸の男をモデルに絵を描くパフォーマンスにも、ポップアートの運動が街をざわめかせた当時の気分が漂う。スターバックスとのコラボレーションでも話題となった、おなじみでアイコニックなデザイナー、ステイシー・ベンデット氏の似顔絵モチーフ(ステイシーフェイス)はあちこちにあしらわれ、アートを感じさせた。

提案された装いはレインボーカラーのワンピースや、真っ赤なベルボトムジーンズ、サイケデリックカラーのロングアウターなど、セブンティーズ色が深い。ゴールディーな総刺繍のジャケットとパンツ、レオパード柄の羽織り物などもグラマラスなテイストミックスを組み上げていた。

■Kate Spade New York(ケイト・スペード ニューヨーク)
特別な場所を選ぶことによって、物語をまとわせることができるのも、プレゼンテーションのよさ。「Kate Spade New York(ケイト・スペード ニューヨーク)」はNYの繁栄のシンボルとも言えるロックフェラーセンターの最上階にあって、マンハッタンの夜景スポットとして有名なレストラン「レインボールーム」をコレクション発表の場に選んだ。ジャズの生演奏で盛り上がる中、ケータリングフードやドリンクが振る舞われ、伝説的レストランならではのリッチ気分を味わわせてくれる。会場内ではオリジナルのTシャツやボールペン、ピンバッジなどのお土産も配られた。

20人余りのモデルはここの名物とされる回転ダンスフロア上に立っていて、フロアごとゆっくり回転する仕掛け。来場者はいちいちモデルの間を動き回らなくても全ルックを確認できる。

装いのムードは全体にグッドガール風味を帯びたレディーライクなたたずまい。70年代風のノスタルジック感も漂う。ボウタイやリボンや様々なパターンで添えられ、ノーブルを寄り添わせた着こなしが目に残る。大ぶりのチェック柄やさめたピンク、詰まった丸襟も穏やかな雰囲気を醸し出していた。

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